9.3.16

ウッスリ|理想のまつ毛について




かつて夢野久作の作品を読んでも、特に精神に異常はきたしませんでした(『ドグラ・マグラ』の裏表紙に「これを読む者は、一度は精神に異常をきたすと伝えられる」とか書いてありますよね?きたしたかたいらっしゃいますか??)。が、独特の言葉遣いがとても印象に残っていて。なかでも「ウッスリ」は群を抜いて心に刻まれています。


 ……運命……そうだ……運命に違い無い……これが彼女の……。  
 こんな風に考えまわしてくるうちに私は耳の中がシイ――ンとなるほど冷静になって来た。そうしてその冷静な脳髄で、一切の成行きを電光のように考えつくすと、何の躊躇もなく彼女の枕許にひざまずいて、四五日前、冗談にやってみた通りに、手袋のままの両手を、彼女のぬくぬくした咽喉首へかけながら、少しばかり押えつけてみた。むろんまだ冗談のつもりで……。  
 彼女はその時に、長いまつげをウッスリと動かした。それから大きな眼を一しきりパチパチさして、自分の首をつかんでいる二つの黒い手袋と、中折帽子を冠ったままの私の顔を見比べた。それから私の手の下で、小さな咽喉仏を二三度グルグルと回わして、唾液をのみ込むと、頬を真赤にしてニコニコ笑いながら、いかにも楽しそうに眼をつむった。 
「……殺しても……いいのよ」
夢野久作『冗談に殺す』



理想のまつ毛ってどんな感じですか。

私は理想のまつ毛を思うとき、「ウッスリ」という音が脳内で鳴り響きます。ウッスリと目を開けるというのは、美しいまつ毛があるからこそ成り立つのではないか。先端に向かって細く長く、暗闇のような漆黒さをたずさえて、繊細に優雅に目もとを縁取るまつ毛。アイラッシュバサバサのボリュームあるまつ毛では、「ウッスリ」の実現は難しい気がする。

理想のまつ毛は人によっていろいろで、上も下もとにかくボリューム!なグラマラススタイルもあれば、カール命のエクステスタイルもあって。百花繚乱で楽しい世界だと思っています。今はエクステが進化しているので使わない人もいるかもしれませんが、まつ毛を美しく見せるアイテムといえば、やっぱりマスカラです。


まつ毛を美しくメイクするためには、自分の理想のまつ毛像を的確に持つことです。とくに「ロングラッシュ」「ボリューム」「カールキープ」の3つの機能、そのどれを重視するかがキモ。マスカラの剤形とブラシの形状によって、その効果が変わってくるからです。

マスカラはおもに、油性タイプと乳化タイプに分かれます。油性タイプはいわゆるウォータープルーフで、乳化タイプの主流は「お湯で落ちるフィルムタイプ」です。個人的には、ボリューム重視なら油性、ロングラッシュ重視なら乳化(フィルム)のほうが、仕上がりは美しいのではないかな〜と思っています(プラス繊維入り)。また、どんなマスカラであっても少なからず「形状記憶」には配慮されているはずなので、「カールキープ」に関しては剤形よりもブラシがキーになってくるのかなと。たとえば、一度にたっぷりついてしまうようなものは重さで下がる危険があります。

マスカラブラシって本当に不思議で「この形状がベストだよ」っていう決まりがないんですね。組み合わせてみないとわからないところがある。一本一本にまんべんなく着けたいから、目の細かいコームタイプがいいかなと思っても、マスカラの液が柔らかくないと、溝にたまってうまくとかすことができなかったり。じゃあ目を荒くしましょうってなると、今度は液が大量について全然とかせなかったり……。また、まぶたはカーブしているので、フレームラインにどう沿わせるか?とかね。一旦思い切って着けてから丁寧にとかしましょう、ってことで片側コーム、片側ブラシになっているものにしてみたりとか。いやいやシリコンで作っちゃったほうがいいんじゃない?みたいなものとか、それはそれはいろいろとあって、実に楽しい世界なのです。


加えて、ここ数年の傾向としては、まつ毛をトリートメントしたり、成分的に安心なものを採用するなど、ケア的な付加価値を持つものも多くあります。たとえば、美しいまつ毛って基本真っ黒です。チャコールのまつ毛にしたいなんて人は相当少数派のはず。だって、黒くないと締まらないし目立たない。そこで黒の色材を使うわけですが、普通の酸化鉄みたいな黒だといまひとつ「闇」感に欠ける。webで言うと#000000にはならず#333333くらいで、まだどこかチャコールなわけです。そこで炭化水素を使った微細な「カーボンブラック」を使用します。しかしこの成分は発ガン性とか色素沈着の可能性があるということで、目もとに使うのはいかがなものか?と考える人も多い。そこで「カーボンブラック不使用なのにここまで漆黒!」というのは、ナチュラルコスメブランドが目指すひとつの到達点だったりもします。

と、すごく長くなってしまいましたが、結論として私が溺愛するのはMiMCの「ミネラルロングアイラッシュ」です。フレームラインに沿ったブラシ、ミネラルだけで実現した漆黒カラー、そして秀逸なロングラッシュ&カールキープ力。一度使ったら手放せません。ちなみに繊維は入っていませんが、繊維様の働きをしてくれるミネラル、シリカが入っています。なので伸びる。グラマラスメガ盛りボリュームにはなりませんが、「ウッスリ」まつ毛にはなります。はい。

あと「パンダ目にならない!」っていう謳い文句よくありますけど、あれは原因が何でパンダ目になるのか?というところが重要。コンタクトとか使っていて涙が出やすいからにじむのか?それとも皮脂でにじむのか?で対処法が全然変わってきます。私は後者なので、油性タイプはにじんでしまう。油性=親油性ということなんです。にじむからウォータープルーフ〜とか思って油性を選んで泣きを見ることもありますのでご注意を。


そしてマスカラを使って美しくなるためには、もとのまつ毛が健康でないと。ということで、素まつ毛のケアにおすすめなのがLASHFOODの「アイラッシュセラム」。医療系メーカーが作っていつつもECOCERTという非常に今っぽいかつアメリカっぽい逸品です。アイライナーみたいな細筆で、フレームラインに肥料を与えてあげるように使います。

いつかエクステもやってみたいな〜と思いつつ、つけまつ毛してもあまり印象が変わらないこともあり、躊躇しながら40歳を迎えようとしております。このまま自まつ毛でいくのか、新たな展開を見せるのか、それはまだ本人にもわからないまま、現在のベストはこの2品です。ウッスリ。

21.2.16

静かな熱量 | GATEWAYとレジン



YYY PRESSGATEWAY、ついに新刊が出た!新刊という表現が合っているのかわからないけど。
GATEWAYは敬愛するデザイナーの米山菜津子様によるリトルプレスと小説と詩集と文集と雑誌と写真集とその他いろいろがあわさったもので、ひとりごとじゃないんだけど(あるいはひとりごとかもしれない)ささやかな話し声が時空を越え、写真や文字となって紙にするりと流し込まれ、1冊のなにか、つまりは出版物となってうまれた、みたいな代物です。
あなたに関係あるかもしれないし、ないかもしれない。みたいなピースがあわさって、ハートというものがもし実在するならば、ハートの下の尖ったところより少し上の右側あたりがクスクスッと撫でられてぎゅんと血圧が上がるような、開くたびにそんな気持ちにさせられるものです。

そこには静かな熱量をかんじるんだな。

20代のころ「静かな音楽が好きだよね」と言われたことがあって、静かっていっても鳥の鳴き声と水の音でできてるヒーリングミュージックとかではなく、たとえばSonic YouthとかマイブラとかPatti SmithとかBoards of Canadaとかなんですけど、ああ確かにな、と思って。そのときに「すごい轟音でも静か」って成立するんだなぁってことを深く思ったんですよね。ようするに湿度が低い、粘度も低いということが重要で、温度はどっちでもいいし、明るい/暗いとかもどっちでもいけるんですよね。だから冷めているわけでは全然なくて、暑苦しいのが苦手なのは湿度とか粘度の問題という。

その「静かな轟音」が、GATEWAYにはゴゴゴと流れている感じがあります。たとえばYO LA TENGOの「Big Day Coming」みたいな。そして、学生時代とか多感な時期の卒業アルバムを見ているようでありながら、ノスタルジーとかではなくめちゃくちゃ攻めてる感じ、プラマイ無限大(ゼロではなく)、な感じが、もうたまらないのであります。

メディアというか表現の場というか伝える場というか、が多様化しているなかで、このジャンルならこのくらいが妥当でしょ、っていうの、あると思います。たとえば辞書とジンだったら違うというようなもの。ひと昔前なら紙とWEBとか。そういうものをGATEWAYはやすやすと飛び越えていて、でもそれはきっと中の人(米さん)は毎日欠かさず腕立て伏せ5万回、くらいのすごい地道なエネルギーを注ぎこんでいて、その結晶なのだよなと思います。


静かな熱量といえば。
コスメキッチン325日に新業態を出します。それがフラワーエッセンスやオラクルカード、オーラソーマなんかを扱うナチュロパシー専門店で、かなりエッジのきいたところなんですけど(カタログ書いたので、オープンしたらお店でぜひみてくださいね)、そこでコスメキッチンがアロマセラピーカンパニーと組んでオリジナルコスメをローンチするんです。基本はスキンケアなんですが、ひとついきなりフランキンセンスのレジンが混じってるんですね。

レジンとは樹脂で、フランキンセンスのほかにはミルラとかエレミなんかが有名ですが、樹液を固めた結晶のようなものです(ポリウレタンとかエポキシ樹脂もあるので、樹脂=樹液ではないと思いますが)。

こういうレジンってどうやって香りを楽しむのかなーと思ったら、水をはったアロマポットに置いて、火をくべればいいんだそうです。要するに湯煎です。熱で少しずつ溶けて、香りを放つんだそう。すごい、静かな熱量って感じしませんか。

焚いて香りを出す樹脂は、もともと神聖な儀式に使われていたもの。昔は限られた偉い人(巫女みたいな?)しか扱えなかったわけですが、こうして一般的に楽しめるなんていい時代ですよねー。

ひと昔前に比べてお香を焚く人って減りましたよね。そのかわりにアロマオイルやルームディフューザーなんかが売れてるのかな。レジンももっと流行ればいいのになーと思います。


写真にあるのは、モロッコで大量に購入してきた樹脂。私はもともとフランキンセンスが大好きで、モロッコで何種か大量に購入したはいいけど使い方がわからなくて放置していました。現地では直接火をつけて燃やしてたんですが、ちょっと抵抗があって、水を使えばいいのか〜と納得。

11.2.16

リップクリーム考。



テスト前に「勉強してないよ〜」って言いながら実はしている。そんな姿勢。これって人の深層心理に巣食う「悪いクセ」みたいなものだと思っていて。
たとえば、思ってもいないのに人のことを褒めるっていうのもそれに当たるんじゃないのかなと。褒められて嫌な気持ちになる人は少ないですよね。それで良かれと思ってついリップサービスしちゃうみたいな。なんとなく。もちろん悪気なくというか、むしろ何かを貯金するような気持ちで。

ここで言う貯金というのは、自分が逃げるスペースを確保するみたいなことで、要するに嘘をついているという意味では、真相を知りもしない有名人のゴシップを受けてその人を誹謗中傷するのと何も変わらないというか。心のなかで起きている現象は同じような気がします。

さすがにテスト勉強してないよ〜とか言うタイプじゃないというかそもそもテストがないんですが、後者のほうは面倒になるとやってしまうことがあるので気をつけたいなーと。ふと。

本当に思っていないものを発すると、自然法則も自分が本当に望んでいるものではないものを与えてくれちゃう、んだそうです。アーユルヴェーダでは。嘘には嘘で返されちゃうんだそうです。


ところで私はリップクリームの好みが激しいです。ハンドクリームなんかは比較的、これじゃないとダメ!みたいには思わないほうですが、リップクリームとA4サイズが入るバッグに関しては、気が合うものが本当に少ない。リップに関しては、潤いつつ適度に膜をはるというか、唇を覆ってくれないとダメで。オイルが唇になじんで一体化してしまうものはすぐ乾いてしまうし、膜を張るだけ張って中がまったく潤ってないでしょ?みたいなものもいただけない。欲をいうなら上から口紅とかキレイに乗せたいよね、という。

その視点で長年愛用しているのは〈Dr.ハウシュカ〉のリップケアスティック。この皮膜感、ほんとうに最強でして、長らくこれしか使わず新規開拓を怠るほどでした。香りもいい(いわゆるフローラルとかではないハーブの香りですが)し、パッケージも…、どうですか?私は〈Dr.ハウシュカ〉のパッケージ支持派です。以前ファッショニスタな友人は好きじゃないと言っていたけど。かっこいいよね?どう?

ここ1年くらいよく使っているのが〈パンゲアオーガニクス〉のリップケア。径がちょい太めでたっぷり容量。コートのポケットに入れて、だっこしている息子の顔にも塗ってます(ズボラ)。〈Dr.ハウシュカ〉に比べるとクリーミーなテクスチャーで、ちょっとバーム感。香りがまたいいんです。息子はオレンジとフェンネルの香りがお気に入り。安心してまっせ的な空気を感じるのですが、夜泣きには効力を発揮せず。こちらのブランド、日本撤退との噂でしたが、オンラインサイトだけひっそりと運営中。いいブランドなので再ブレイク希望です。

そして最近いたく感動したのが〈デ・マミエール〉のロージィ リップバーム。これはめちゃくちゃラグジュアリーで香りも唯一無二、ダマスクローズの精油が入っているんですが、ただのダマスクローズの香りではなく、本能を刺激する香りというか(ここのブランドは全体的にそんな感じ)。のせている間、唇が煮こごりに埋まってる…みたいな感じ?とにかく至福。マッサージにもぴったりです。

という、嘘偽りないリップクリーム考。ひとまず私の唇人生、この3種を軸に回っていきそうです。


アーユルヴェーダの「行動のラサヤナ」

常に正直であり、真実を語る
他人を傷つけず、思いやりをもって接する
優しい話し方をする
休息と活動のバランスがとれた規則的な生活
過度な緊張や怒りから解放される
決して無理をせず、穏やかで平和的である
自己本位にならない
行儀を良くする
物事をシンプルにする
暴力に訴えない
清潔にする
飲酒や性行為にふけらない
こころから尊敬すべき人を尊敬する
定期的な寄付をする(知識、食物なども含む)
瞑想を実践する
パンチャカルマを受ける
何かをする際に、正しい時、場所、量をよく知る
年長者や高い知恵を持った人に仕える


24.1.16

BAZAAR推し。




雑誌のリニューアルや復刊がいろんな意味で話題ですが。
最近私が注目しているのは、断然Harper’s BAZAAR。日本のバザーです。

年明けにAMATAで合併号を読んで、ムムム、こ、これは!と引き込まれ、即自分でも購入。久々にテンションが上がりました。いつからこんな誌面作りになった??BAZAARってこんな面白かったっけ?と動揺すらしたのであります。

どんなところに感動したかというと、まず単純にすごく面白いハイファッション誌、ということ。もちろんBAZAARだからラグジュアリーブランドばかりが載っていて、そんなページって今は全然リアルじゃないですよね、なんて思ってしまいがちだけれども、その定説(?)をいともたやすく裏切ってくれる。不思議なくらいに「これ欲しい」「これ着たい」って思わせる誌面がそこにある。ラグジュアリーなんだけど非現実じゃない、ラグジュアリーなんだけどゴージャスじゃない、というのを今の日本でやってのけるのは、かなりの偉業なのではないか。

私はそもそも大学時代(90年代中盤)にBAZAARを愛読していました。Liz Tilberisが編集長で、Fabian Baronがアートディレクターだった時代。(9495年あたりはアメリカから直接年間定期購読してました。今思えば円高だったのかな?)当時ほかに大好きだったのがVOGUE ItaliaVOGUE parisi-DTHE FACEって感じだったんですが、アメリカのファッションが全然おもしろくなかったんですよね。Calvin KleinDKNYみたいな。ミニマリズムで商業的で。ZEN逆輸入みたいな。SUSHI BARでカリフォルニアロールみたいな(偏見)。雑誌もしかりでしたが、BAZAARだけはかっこよかった。写真もエディトリアルも最高。Patrick DemarchelierPeter Lindberghの素晴らしい仕事ぶり。David Simsでさえ、BAZAARで撮るとこうなるんだ、と衝撃を受けたり。モダンでシックでスマートで。広告がたっぷり入るとき以外はいつも薄っぺらくて、でも中身が詰まってて。全部のページが大事でした。

っていう、あの頃の空気感がそこはかとなく漂っている!見ていてワクワクするし、あ〜私ファッションが好きなんだな!って思わせてくれる。そんな雑誌、今なかなかないと思う。

それから、とても知的であるところ。海外雑誌の日本版って、日本でやるとこうなっちゃうのか〜って思うことがとても多いです。それはがっかりとかではなく。生活や、人々の関心や、法律や…、国が変われば変わるわけなので、当然のことだと思う。けど。いまのBAZAARは違う。決して暮らしとかカルチャーとかストリートに逃げない。ロックスターやセレブリティの記事であったとしても、美容のコラムであったとしても、すべてがBAZAAR然としている。気高い。なのに、リアリティがある。ちょっとELLE japonの映画スターインタビューを彷彿とさせるリアル感。若者に媚びてる感じが一切ないのもいい。

あと、エディトリアルデザインが美しい。すみずみまで気を配ってつくられているのがわかる。当時のBAZAARを彷彿とさせるトピックの切り取り方、でも表現が古くない、というね。しかも(当たり前だけど)きちんとした日本語で書かれている!だから、そのまま翻訳機にかけましたみたいな謎の違和感、借りてきた感がない。

今月号も買ったのだけど、判型が当時のHarper’s BAZAARと同じになっていて、ますます好感度高し。この勢いで突っ走ってほしい。